井上靖のことば

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「野分(一)」

2014.6.30更新
漂白の果てについに行きついた秋の落莫たるこころが、どうして冬のきびしい静けさに移りゆけるであろう。秋と冬の間の、どうにも出来ぬ谷の底から吹き上げてくる、いわば季節の慟哭とでも名付くべき風があった。
それは日に何回となく、ここ中国山脈の尾根一帯の村々を二つに割り、満目のくま笹をゆるがせ、美作より伯耆へと吹き渡って行った。 風道にひそむ猪の群れ群れが、牙をため地にひれ伏して耐えるのは、石をもそうけ立たせるその風の非常の凄じさではなく、それが遠のいて行った後の、うつろな十一月の陽の白い輝きであった。

一九四六(昭和21)年9月25日発行の『火の鳥』第1冊に発表。井上靖39歳。
詩集『北国』一九五八(昭和33)年3月 東京創元社 収録。
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