井上靖のことば

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千本浜

2014.9.2更新

千本の松の間に千個の海のかけらが挟まっていた。
少年の日、私は毎日それを一つずつ食べて育った。



一九六三(昭和38)年1月発行の『風景』新年号に発表。井上靖56歳。
沼津市千本浜公園の文学碑碑文、一九六三(昭和38)年3月建立。発起人・岡野喜一郎、斉藤了英、鈴木松夫、設計・菊竹清訓、木村賢太郎、向井良吉。
詩集『シリア沙漠の少年』、一九八五(昭和60)年8月、教育出版センター 収録。
同詩集を28年ぶりに二〇一三(平成25)年8月、銀の鈴社が復刊。当館でも販売中。


『夏草冬濤(なつぐさふゆなみ)』

2014.9.2更新

校庭には早くも秋を思わせる風が吹(ふ)き渡(わた)っており、校舎は青く澄(す)み渡った静かな空を背景にして置かれてある。生徒たちは、少し気恥(きはず)かしい思いで校門をはいって行く。校門をくぐりながら、校舎や校庭は、夏休みの間に幾(いく)らか縮まってしまったのではないかと、まじめにそんなことを考える。校舎はもっと大きかった筈(はず)だし、校庭はもっと広かった筈である。しかし、そうした疑念も長くは少年たちの頭に留(とど)まっていない。そんなことにかかずらわっていられないほど、小さい魅力(みりょく)ある事件がいっぱい待っている。恐(おそ)ろしくまっ黒な顔をした友達もいれば、反対にまっ白な顔をした友達もいる。みんな夏休み前とは少しずつどこか違っている。

『夏草冬濤』より


『夏草冬濤』は一九六四(昭和39)年9月から翌年9月まで産経新聞に連載(350回)。
市民文化センター入り口の「香陵文学碑」碑文。旧沼津中学門柱が囲むデザイン。
二〇一〇(平成22)年11月建立。沼津北ロータリークラブ創立50周年記念事業。

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