井上靖のことば

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出発

2015.4.16更新

                  井上 靖(いのうえ やすし)
ぼくは
マラソン競争で
白いスタート・ラインにならぶ時が好きだ。
かるく腰(こし)をうかせ
きっと遠い前方の山をうかがう
あの瞬間(しゅんかん)のぴんと張った気持(きもち)が好きだ。
やがて笛は鳴りひびくだろう。
ぼくたちはかけ出す。
校庭を一周し、町をぬけ、村を通り、おかをこえる。
友をぬいたり
友にぬかれたりする。
みなぎってくる
いろいろの思いをしずかにおさえて
友と友の間にはさまれて
先生の笛の合図をまっている
あのふしぎにしずかで、ゆたかな、出発の時が好きだ。


一九四七(昭和22)年一月一日、毎日新聞社(大阪)発行の『少國民新聞』発表
新潮社『井上靖全集』第一巻 収録。 ルビは教科書「小学校国語6年上」による。


◆井上の作品が教科書に載るのは10年ぶりのこと、詩「出発」が教科書「小学校国語6年上」(学校図書株式会社発行)の巻頭を飾った。ありがたいこと、井上ファンの先生がいたのだろう。一九四六(昭和21)年、戦後、井上39歳の作だろう。その頃「明日への希望」、「夜明け」などの言葉は流行った。子どもたちにとってもかけがえのない「出発」へのおもいは今もかわらないことは間違いない・・・。


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