井上靖のことば

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2018.11.9更新


「岡田茉莉子」



「岡田茉莉子さんは美しい翳りを持っている。表情にも話し方にも、また演技の上にも、その翳りはちらちらする。おそらく天成のものであろうが、他のひとの持つことのできない岡田さんの大きな魅力である。」



『花咲く扉 東宝株式会社演劇部女優アルバム』「岡田茉莉子」より抜粋
1966年9月 東宝事業部出版課発行、井上靖 59歳


岡田茉莉子は自叙伝「女優 岡田茉莉子」で、井上のことばを次のように書きとどめている。
「あなたは華やかに見える女優さんだが、どこか影がある。その暗さが、意志を内に秘めているように見える。あなたの思うように演じてくださって結構です」
『女優 岡田茉莉子』岡田茉莉子著より抜粋(2009年10月、文藝春秋社)

「離愁」「猟銃」「河口」と立て続けに井上作品の映画に出演した岡田茉莉子。
「小説でお書きになっておられる女性は、いつも芯の強さを抑えていると思うのですが、私はそれを表に出しすぎでしょうか?」という質問に井上は上のように答えたという。
岡田は「私がもって生まれたともいえる暗さ、母と二人で生きるしかなかったその影を私の演技の中に読み取ってくださったのだろう」と書いている。井上の観察眼があらわれている一文である。



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