井上靖のことば

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2019.1.7更新


「元旦に」



門松を立てることも、雑煮をたべることも、賀状を出すことも、実は、本当を言えば、なにを意味しているかよくは判らない。しかし、これだけは判っている、人間の一生が少々長すぎるので、神さまが、それを、三百六十五日ずつに区切ったのだ。そして、その区切り、区切りの階段で、人間がひと休みするということだ。
私は神さまが作ったその階段を、ずいぶんたくさん上がって来た。今年はその五十段目だ。昭和三十二年の明るい陽の光を浴びて、私はいまひと休みしている。はるか下の方の段で、私の四人の子供たちも、それぞれ新しい着物を着て、いまひと休みしている。






「元旦に」
1957(昭和32)年1月1日付『日経新聞』へ発表。井上靖50歳。
『井上靖全集第1巻』1995(平成7)年4月、新潮社へ収録。



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